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Bruce Huebner(ブルース・ヒューバナー) [尺八奏者・アメリカ]
Bruce Huebner(ブルース・ヒューバナー) [尺八奏者・アメリカ]
1960年米国カリフォルニア州出身。10歳よりクラシックフルートを、14歳からジャズサクソフォンを始める。1983年来日。外国人として初めて、東京芸術大学邦楽科修士課程(尺八専攻)修了。現在は自身の音楽活動と共に福島県立医科大学で教鞭をとる。琴古流尺八師範。 |
待ち合わせた部屋のドアを開くと、ジャズピアノと共に、春の訪れを感じさせるブルース・ヒューバナー氏の奏でる尺八の音色が聴こえてきた。ジャズ・ワールド・ミュージックグループ『カンデラ』のメンバー、ジョナサン・カッツ氏とのセッションの最中にお邪魔した。
 尺八を追求することが 音楽のルーツ探しにつながった
国内外のアーティストとの音楽活動に多忙を極める、尺八奏者のブルース・ヒューバナー氏。幼少のころからジャズ好きの父親の影響で、フルートやジャズサックスを習っていたという。 「ジャズバンドのライブにたくさん連れて行ってもらいましたね。いま振り返ると、あのころ自然と耳に入ってきて肌で感じた音楽が、僕のルーツになっているんだと思います」 尺八との出会いは突然訪れる。ロスアンゼルスの美術館で三曲(三味線、琴、尺八を用いた合奏)の演奏会があり、袴姿の演奏者の立ち振る舞いに感銘を受けた。尺八はもちろん、日本という国についての知識は皆無に等しかったが、「そのときの衝撃はなかなか消えず……というかいまだに残っています」と笑う。 しかし、なぜ、尺八だったのか? それまでフルートやサックスという西洋楽器を専門に学んできたのにも関わらず。 「尺八のように数百年もの伝統を持つ楽器を追求すれば、自分にとって一番心地よい音楽を探し求めることができると思ったんです。そして他の楽器、他のミュージシャンへもいい影響になるかな、と。その人がいままでやってきた音楽性がガラっと変わる可能性だってあるわけです。僕にとってそのツールが尺八だった。音色にほれ込んだのは当然としてね(笑)」 懐かしい顔を見て思うのは 「音楽って本当に素晴らしい」
尺八と同じく、来日の機会は思っていたよりも早くやってきた。大学で所属していた吹奏楽団のツアーで、2週間ほど日本へやってくることになり、総勢80名のメンバーで海を渡った。実際に日本の地を踏んで決意したそうだ、「尺八を本格的に習おう」と。 このときの滞在は約3年半に渡る。語学学校に通いつつ、尺八の稽古を受け、夜は生活費を稼ぐために英語を教えていた。 その後、一度米国に戻り、日本の宗教や歴史、東洋学を学びなおすために、カリフォルニア州立大学 サンタバーバラ校の修士課程に入学する。完全に照準は再来日に合わせられたようだ。 「尺八のルーツには仏教など宗教的なものが存在します。尺八奏者として、いえ、ひとりのミュージシャンとして極めたいと思った楽器を深く掘り下げるのは当然のこと。演奏技術だけでなく、その存在意義から学びたかったんです」 修了後は日本に戻り、東京芸術大学 邦楽科にて、晩年人間国宝となる故山口五郎氏の教えを受けることとなる。 「ロスアンゼルスで車に乗っているときに、カーラジオから先生の吹く尺八が聞こえてきたことがありました。いま思い出しても鳥肌が立ちますよ。実はいまこの瞬間、先生の曲を収録したレコーディングは惑星探査機ボイジャーに乗って宇宙のどこかを飛んでいます。いずれ尺八に興味を持つ人が違う星からあらわれ……人じゃないかもしれませんね(笑)」 同大学を卒業した後は福島学院大学(現)にて助教授の職に就く。福島で生活をした6年間は、生徒たちに尺八や国際理解を伝えるだけでなく、精力的に自身の音楽活動に励む。 「先日、福島にいって同校の卒業式で演奏をさせてもらいました。懐かしい教授やスタッフの顔を見てあらためて心から思いました、『音楽っていいな』と。人と人をつなげてくれる存在です、音楽は」 モダンとクラシック そのふたつだけが“日本”ではない 2000年はブルース氏にとって大きなターニングポイントとなる。第二の故郷となった東北地方を離れ、音楽の世界で生きるため、東京に生活基盤を移すことを決意する。 そして長年の盟友ジョナサン・カッツ氏(ピアノ、フレンチホルン)と共にジャズ・ワールド・ミュージックグループ『カンデラ』を結成。それぞれの道で音楽を追求してきたミュージシャン達が、ジャズをルーツとした新しい音楽を創作することをめざしたグループだ。 「尺八が中心になるつもりはなかったんですが、何度も公演をするたびに自然と溶け込み、調和していった。“外国人が尺八でジャズ”というものめずらしさがあったのも事実でしょうけどね(笑)」 素晴らしいジャズマンと共に尺八の可能性を試行錯誤する。そうしてできあがった1stアルバム『MOGAMI』について、「本当にいいアルバムです」と照れくさそうに笑う。このCDに収録されている曲のほとんどは、日本の風土や音楽、そこでの経験からインスピレーションを得たものであり、日本での生活の結晶となっている。
2008年春、ブルース氏と箏奏者のカーティス・パターソン氏、そしてゲストヴォーカルのスーザン・オズボーン氏は、桜とともに南から北へ日本を縦断するツアー、その名も『桜前線ツアー』の真っ只中だ。 「いつだったかカートと公園で練習していたとき、私たちの組み合わせが面白かったんでしょうね、どんどん人が集まってきてすごい盛り上がりを見せたんです。そこで後先考えずに『来年は桜前線といっしょにツアーに出ます!』と宣言したら、さっそく次の年にそれが叶ってしまった。カートとコラボレーションするたびに思いますよ、箏と尺八って何百年という歴史があるでしょう。やっぱりね……合うんですよ」 そう、尺八には歴史がある。沈黙がある。間がある。このせわしい世の中において、音楽には癒しの力だけでなく、曲がっているものをまっすぐにする力があるとブルース氏は信じている。その力を最大限発揮するためにも、生の音をできるだけ大切にしていきたいそうだ。「ライブを観に来てくれたらわかりますよ」というその笑顔からは、自信と誇りが垣間見えた。 最後にブルース氏にとっての日本を聞いてみた。 「日本と聞くとエレクトロニクス、ネオン、メディアなどのモダンなイメージと、着物や尺八などのクラシカルなイメージにわかれると思う。そのふたつだけが日本ではないことをもっと多くの人に知ってほしいですね。ひと言でいえない魅力があふれていますよ、日本という国も、日本という国が持っている文化も」 TEXT:筒井健二 PHOTO:三川ゆき江 |