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Curtis Patterson(カーティス・パターソン) [箏奏者・アメリカ]
米国イリノイ州シカゴ出身。コーネル大学(アイオワ州)在学中に箏と出会う。来日後、生田流箏曲の基本である地唄を学び日本の伝統音楽への理解を深める。1990年沢井箏曲院に入門し、沢井忠夫、一恵両師に師事。以来、古典曲のみならず数多くの現代曲も手がけるようになる。さまざまなジャンルのアーティストとの活動、邦楽教育・指導によって幅広い箏の世界を目指す。 |
Curtis Patterson(カーティス・パターソン) [箏奏者・アメリカ]「お話に入る前にまず箏の音色を聴いてみてください」と、『鳥のように』という曲を爪弾きはじめたカーティス・パターソン氏。これは同氏が師事をした沢井忠夫氏の作品だ。都内において小庭を構える日本家屋でその音色に耳を傾けると、おもわず鳥に連れられて空へと舞い上がる感覚をおぼえた。
何百年も続いてきた"歴史"が日常にあることに驚いた
幼少のころからピアノを弾いていたというカーティス氏は、現在、箏奏者として日本全国を飛び回る多忙な日々を過ごす。米国出身の同氏が箏と出会ったきっかけは? 「大学でジャズ好きの教授が偶然箏を持っていて、弾き方を習っているうちにすっかり夢中になりました。ただ、たしかに音楽は好きでしたがそれで食べていくつもりは全然なかったので……不思議なものですね(笑)」
その後、箏を通じて日本という国へ興味を持ち、1980年にアンサンブルの演奏会で初来日を果たす。来日前は「特に日本に対するイメージはなかった」というが、実際は驚きの連続だったようだ。 「狭い土地に効率よく人が住んでいるなあと思いましたね。いや、悪い意味じゃなくて、逆にアメリカはなんと無駄な土地の使い方をしてるのかと。あと、普段の生活の中に"歴史"が存在していることに感動したのを覚えています」 カーティス氏が生まれ育ったシカゴでは、歴史といってもせいぜい100~150年ぐらいのもの。200年前までは広大な草原だったのだから当然かもしれないが、日本にはいたるところに何百年と続いてきた神社や仏閣がある。「街にもお地蔵様などが普通にあるでしょう。電車があまりにも正確に来るのと同じぐらいの驚きでした」と笑う。 筝曲の基礎を磨いたことで箏が持つ可能性に気づけた 米国に帰国したのち、社会人として働きもするが、箏と日本への想いを忘れることができず、文部科学省が推進するJETプログラム(Japan Exchange and Teaching Programme)のALT(Assistant Language Teacher)に参加し、栃木県内の高校へ英語講師として赴任する。生田流箏曲の基本である地唄などを学び、古典としての箏について理解を深めたのが、この"栃木時代"だ。 「まさに勉強の時代ですね。その後、大学時代の日本人の友人に誘われて京都に住み、紹介をしてもらったのが沢井忠夫のお弟子さんでした」
オーケストラのように大勢で箏を演奏したり、新しい箏の一面を知らされた"京都時代"。 「いままでやっていた古典的な箏も魅力あふれるものだったのですが、自由度が高い表現方法もあるんだという新しい発見をくれたのが沢井先生でした。栃木では古典の素晴らしさ、京都では現代曲、そして箏の可能性を発見したといえます。その後、沢井氏に直接習いたいと思い上京し、沢井箏曲院へ入門しました」
その日の気分によって音色が変わるほど繊細な楽器 「僕は人に箏を教えるのも自分で演奏するのも大好き。教えるってすごく勉強になるんです。『なぜこういう弾き方をするのか?』という基本的なことを、論理的に振り返ることができますから」
小さいころから『週に何回』と決めて稽古をするのが理想的ではあるが、現実としてその数はかなり少ないだろう。だからこそ、たとえば社会人になってから箏をやってみようという人に対して「いままで箏をやっていなかった時間を埋める手伝いをしたい」と語る。
また、人によって手の大きさ、指の大きさ、かたちが違うのだから、他の人とまったく同じ弾き方というのはありえない。「まず最初に指を見ます」というのはそういったところに理由がありそうだ。 「箏は桐の木に絃を張った素朴な楽器。指で弦を押さえ、滑らせることによって音が変化します。いち時期はいわゆる"日本的な音"を目指していたこともありましたが、最近になってようやく"自分自身の音"が見えてきました。その日の体調や気分、音への姿勢によって音色が変わるほど繊細な楽器だからこそ、いままで夢中になってやってこられたのかもしれませんね」 英語にはない"縁"という言葉が心地よい これからは「いまやっていることをやり続けていきたい。箏の素晴らしさを多くの人にわかってもらえるよう、これまで以上に演奏活動やレッスンをしていきたい」そうだ。現在は尺八奏者のブルース・ヒューバナー氏とのライブ活動を精力的におこなっているが、それと並行してオリジナル曲の作曲もさらに手がけていく。
最後にカーティス氏にとっての日本文化を聞いた。 「『縁』という言葉がありますよね。特別な意識はしないけど、日本人の中には確実に根付いているだと僕は思います。アメリカにはない考え方ですが、日本に住むようになってから自然とそれを受け入れられるようになりました。偶然の出会いがいくつも重なると、いまこうして生きていることとは別の次元で動いている"なにか"を感じるんです」 英語の「Destiny(運命)」とも「Predestine(運命づける)」とも違う、歴史と同じように、日常生活に溶け込んでいる『縁』が心地よいそうだ。
箏の形状は1,000年以上変わっていない。それには理由がある、「変える必要がなかったから」という理由が。進化、変化がもてはやされるいまの時代、"変わらないことこそが日常"という箏の世界の奥深さを知った。
<本文補足文> ■「箏」と「琴」 もともと「箏」と「琴」は違う楽器です。胴の上に柱(じ)を立てて演奏するものを箏、立てないものを琴といい、古くは弦を張った楽器すべてを"コト"と呼びました。本インタビューでは「箏」という表記に統一させていただきます。
■箏の基礎知識 一般的な箏の弦は13本あり、奏者の向こう側から一二三四五六七八九十斗(と)為(い)巾(きん)と呼ぶ。箏を弾くのに使う爪の形状は生田流の角爪や山田流の丸爪など、流派によって異なる。また、生田流では爪の角で弾くので箏に対してやや斜めに座るが、山田流では正面に構える。
TEXT:筒井健二(KENJI TSUTSUI) PHOTO:三川ゆき江(YUKIE MIKAWA) |