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塚田(つかだ)晴可(はるよし)/「ギャラリー無境」主人 
1951年東京生まれ。1979年東京・外苑前にギャラリー塚田を開廊、北大路魯山人を中心に扱う。1994年銀座にギャラリー無境を開廊、幅広いジャンルの東西の古美術、現代作家の作品を紹介。美術品の鑑定評価や、「セブンシーズ」「婦人画報」「ミセス」「和樂」などの雑誌でアートコーディネイトや執筆を行うほか、講演、お茶会など、様々な分野で活躍中。著書に『美神の邂逅』(里文出版)、『暮らしのなかに 新・古美術』(淡交社)がある。 |
古く中国から東南アジア、日本へと伝わり洗練された漆器 僕の知っている限りでは、中国では紀元前から漆器が作られていたようです。それが東南アジアや韓国に広がって、日本でもかなり古い時代から漆が使われていたようです。日本に入ってきたのは、縄文時代かもしれないし、もっと古い時代かもしれない。今はそういう検証がどんどん進んでいますから、これからもいろいろと新しい発見があるかもしれません。 漆の特徴というのは、素材の堅牢度(けんろうど)をすごく増すことです。木という素材は、朽(く)ちやすかったり水に弱かったりしますが、その上に漆の膜を作ることによって、木が呼吸しながら堅牢度を保つことが可能になるのです。 現在では、日本ほど漆をうまく使って美しいものを作り上げている文化はどこにもないと思います。実際、東南アジアにも中国にも韓国にも漆を使った美術品はありますが、技術的にも美術的にも、完成度において日本がだいぶ引き離しています。日本では、古くには正倉院の中に素晴らしい漆の調度品があったり、木心乾漆(もくしんかんしつ)と呼ばれる、木をベースにしてその上に漆を塗った仏像が天平時代(てんぴょうじだい)に多く作られたりしています。
それから、日本の漆器の特徴というのは、食事の場面で大事にされていることです。料理人の一番の腕の見せ所は、汁もの、椀ものだと言われるように、椀の重要度が非常に高いんです。お茶会の懐石(かいせき)でも、椀ものがおいしければ他は許してもらえる、とまで言われていて、「これは良いお椀だね」という褒め言葉がくると、席主も一安心するわけです。それくらい重要な役割を、漆の椀というのは日本料理のなかで担っているわけです。また、漆はいろいろな調度品にも使われていますね。棚や机などの大きなものから、香合(こうごう)や根付(ねつけ)などの小さなものまで、実に多種多様です。このように、昔から漆は日本人の暮らしに寄り添い、彩りを添えてきたわけです。漆器は高価で贅沢品だと思っている方も多いようですが、大切に使えば何十年と使えることを考えると、決して高いものではない。最近、若い方が漆器を日常に使うようになってきたことは、喜ばしいことです。 魯山人と漆器芸術家・美食家として有名な北大路魯山人(きたおおじろさんじん)も、すごく漆を大事にしているんですよ。 石川県の山中あたりの木地師(きじし)達何人かに依頼して、自分のデザインした漆器を作ってもらっていたようです。4月にギャラリー無境で個展をされる村瀬治兵衛(むらせじへい)さんのおじいさんも、魯山人から依頼を受けて漆器を一緒に作られた木地師の一人です。
魯山人のデザインした漆器の中で、日月椀(じつげつわん)という金と銀の丸い模様をあしらった有名なお椀がありますが、これは魯山人オリジナルのデザインです。おそらく桃山時代以前の日月屏風などをヒントにしたんだと思いますが、非常に洗練された意匠ですね。それ以降、多くの人が日月椀を写して作っていますが、魯山人より良いものはできないんですよ。不思議なものですよね。魯山人が作った汁ものをあの日月椀で飲んだら最高だったでしょうね。 魯山人は、いくらおいしい料理でも器が良くなければ駄目だ、と考えていて、「器は料理の着物だ」と語っています。もともと魯山人は、自分が経営していた料理屋で使うための器を作りたくて、作陶を始めたんです。どんなにおいしい香りの良いお吸い物でも、お椀の口当たりが良くなければ台無しになってしまう。日本料理は器に口を付けて頂くものが多いので、口作りは大事ですね。 日本料理ほど、多種多様な食器を使う料理はないですね。やきもの、漆器、ガラス、金属器、何でも食器に使う。それらを、季節と料理の特性に応じて選んで、うまく組み合わせて。日本人の高い美意識のあらわれだと思います。さらに言えば、料理と器の取り合わせだけでなく、それを頂く空間も大事なんです。料理に合った床の掛軸であったり、お花であったり、その空間にあるものすべてが調和して、はじめて完成と言えるんですね。そうした日本の文化、美意識の集大成が茶道です。 現代の漆作家達魯山人と一緒にお仕事をされた木地師のお孫さんである村瀬治兵衛さんは、茶道に造詣が深く、お茶道具の制作に熱心に取り組まれています。林屋晴三(はやしやせいぞう)さんという、大変なお目利きの先生からの指導もあって、ますます作品の完成度が高まってきているように思います。4月7日から19日まで、ギャラリー無境で開催する個展では、茶器を中心に出品して頂きます。
赤木明登(あかぎあきと)さんも、大変人気のある漆作家で、漆の魅力を広めることに尽力している方です。彼はもともと『家庭画報』という雑誌の編集者だったのですが、漆に魅せられて東京から輪島に移り、伝統的な技術を身につけたうえでモダンな独自の表現をなさっています。 こうした方々の活躍のおかげで、漆は今ブームと言われるほどに注目されています。でも、毎日使って漆器の良さを実感すれば、お椀からお皿に、お盆に……と広がっていきますから、一過性のブームでは終わらないでしょう。ハレの日の特別な贅沢ではなく、普段使いの贅沢というものが、感性を育むうえで一番大事なのではないでしょうか。 ギャラリー無境 〒104-0061 東京都中央区銀座1-6-17 アネックス福神ビル5階 tel.fax.03-3564-0256 http://www.mukyo.com e-mail:
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